内分泌に関する研究
はじめに
近年の内分泌学においてホルモンは,古典的な細胞間の情報伝達だけにとどまらず, 神経系, 免疫系などとも大きく関連し, 生体内全ての細胞および臓器が様々な情報交換を行いながら, 生体の維持に寄与していることが分かってきている. つまり内分泌を学ぶことは”生体の恒常性の全てにおいて学ぶこと”とも言える.
内分泌疾患の臨床においては, 生化学・画像検査の進歩により, 原発性アルドステロン症をはじめ, 様々な内分泌疾患の鑑別を要する症例が増えていている.各疾患の原因については遺伝子レベルでの病態解明も進み,診断におけるデバイスや様々なホルモン製剤の開発など治療の選択肢も増加しており, より専門的な知識と経験が求められる時代となりつつある. また, 脳神経外科や泌尿器科といった他診療科との連携も重要であり,ホルモン産生腫瘍の周術期および術前後管理はもちろんのこと, 不妊症・不育症の診療における甲状腺機能異常や性腺機能低下等,内分泌疾患の鑑別・治療においては産婦人科との連携も必須である. 更には, 2018年のノーベル生理学・医学賞で話題になった免疫チェックポイント阻害薬は今後も様々な癌治療での適応が広がることが期待されているが, 自己免疫性甲状腺炎や下垂体機能低下症などの内分泌分野での副作用も出現することが分かってきており, 今後ますます内分泌医専門医の活躍の場が広がる事が予想される.
更に古典的な内分泌疾患に関する診療だけに留まらず, 近年はホルモンと生活習慣病との結びつきに注目が高まっている. 例えば, 昇圧ホルモンの1つであるアルドステロンは, 原発性アルドステロン症でなくとも肥満患者で増加していることが分かってきた.生活習慣病の病態基盤に,アルドステロン合成促進機序が少なからず影響を与えている可能性が示唆されており, ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬が糖尿病合併症予防の創薬のターゲットとして期待され, 当教室でも研究を進めている.
当医局は付属4病院を合わせると,日本でも有数の生活習慣病患者数を誇っており, どの研究班に所属していても,診療の経験を十分に積むことができる. その中で, 当研究班は内分泌医としての視点も育み, 経験を積みたいと思う医師を求めている.
現在行っている具体的な研究テーマ
基礎研究
- 糖尿病におけるミネラルコルチコイド受容体に関する研究
糖尿病を代表とするインスリン抵抗性を基盤とした病態では, 内臓脂肪の蓄積によりアルドステロン分泌増加が生じている. 一方で, 高血糖などを介した機序により, 組織レベルでのミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性化も生じていると考えられている. こうした生活習慣病におけるMRの働きについて研究している.
- ヒト多能性幹細胞からのコルチゾール産生細胞分化誘導と SF1 制御分子基盤の探索(国内留学)
臨床研究
- 原発性アルドステロン症に関する後方視野的検討
- 糖尿病合併症おけるミネラルコルチコイド受容体に関する研究
- 本邦の GH 産生下垂体腺腫の genotype-phenotype 関連解析(国内留学)
- 内分泌疾患患者のデータベース 内分泌患者数 (2018年度 カルテベース)
本院 | 葛飾 | 第三 | 柏 | |
---|---|---|---|---|
下垂体疾患 |
160 |
60 |
30 |
45 |
甲状腺疾 |
1470 |
550 |
150 |
250 |
骨代謝・副甲状腺疾患 |
50 |
15 |
20 |
25 |
副腎疾患 |
275 |
60 |
40 |
80 |
性腺疾患 |
15 |
3 |
3 |
5 |
その他 |
20 |
1 |
― |
5 |
- 稀少症例に関する症例報告
チーフ
講師 | 山城 健二 | 平成13年卒 |
非常勤講師 | 海老澤 高憲 | 平成7年卒 |
受賞・研究助成
- 平成30年度 東京慈恵会医科大学同窓会海外派遣助成(大橋謙之亮)
- 平成29~30年度 文部科学省科学研究費補助金 若手研究(B)(林 毅)
- 平成29年度 第21回日本臨床内分泌病理学会学術総会 奨励賞(大和梓)
- 平成29年度 東京慈恵会医科大学大学院研究助成金(大橋謙之亮)
- 平成28年度 第26回臨床内分泌代謝 Update 優秀ポスター賞(大和梓)
- 平成27年度 第43回内分泌代謝研究会 演題特別賞(鈴木里佳子)
- 平成25年度 第41回内分泌代謝研究会 演題特別賞(鈴木里佳子)
- 平成25年度 アストラゼネカR&Dグラント(林 毅)
- 平成24年度 4th Aldosterone Forum(Japan). Aldosterone award(林 毅)
- 平成24年度 36th International Aldosterone Conference (USA). YIA Finalist(林 毅)