東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科

合併症に関する研究

糖尿病血管合併症は患者のQOL低下や生命予後悪化に直結する重要な病態です。私たちは細小血管症と大血管症の共通した基盤病態に着目し、新たな治療標的の同定と創薬を視野に入れたプロジェクトに取り組んでいます。

主な研究テーマ

1. 糖尿病細小血管症とRho/ROCKシグナル

 低分子量Gタンパク質Rhoの標的分子であるRho-kinase(ROCK)は、糖尿病状態で活性化され、網膜症・神経障害・腎症といった血管合併症の病態形成に深く関与しています。網膜では、ROCKが血管新生因子の発現を誘導し、異常な血管新生を促進します。また末梢神経では、ROCKの過剰な活性化が接着関連分子の局在異常を引き起こし、神経機能の障害に関与します。腎臓においては、ROCKが酸化ストレスの亢進、炎症性サイトカインの誘導、低酸素応答による糸球体硬化、および尿細管上皮細胞の形質転換に関与します。さらに、ROCK阻害薬は2型糖尿病を有する患者においても蛋白尿を減少させる効果が示されており、ROCK経路の阻害が糖尿病細小血管症に対する新たな治療戦略となる可能性が示唆されています。
 ROCKにはROCK1およびROCK2の2つのアイソフォームが存在し、それぞれ腎障害の進展に異なる役割を担います。ROCK1はメサンギウム細胞における脂肪酸代謝や酸化ストレス応答を調節し、代謝障害による腎症の病態形成に寄与します。一方、ROCK2はポドサイトのアポトーシスや代謝恒常性の破綻を介してアルブミン尿の発症に寄与するほか、尿細管においてはミネラルコルチコイド受容体の発現を制御し、炎症応答を促進します。またROCK2はメサンギウム細胞の炎症性サイトカイン発現にも関与し、その阻害によりアルブミン尿の抑制効果が示されています。

2. 糖尿病大血管症とRho/ROCKシグナル

 ROCKは血管内皮においても接着分子の発現や炎症性サイトカインの発現を制御しており、これらの過程には特にROCK2アイソフォームが関与することが示されています。さらに、血管内皮のROCK2は白色脂肪細胞の褐色化を抑制し、肥満の形成にも寄与することが明らかとなってきています。ROCKは大血管症の進展過程においても重要な役割を担っていると考えられています。
 これまでの研究から、糖尿病による血管合併症は各臓器で個別に進展するのではなく、ROCKの活性化を基軸とする共通の病態が存在すると私たちは考えています。これはROCKが有望な治療標的であることを強く示唆するものであり、私たちはその臨床応用を意識して研究を進めています。


チーフ

  教授 横田 太持  
准教授 的場 圭一郎  

受賞

研究助成

留学先


 合併症研究班は細小血管症や大血管症の進展機構解明、さらに血管合併症に苦しむ患者の一刻も早い救済を目指し、日々診療と研究に取り組んでいます。私たちの研究内容にご興味ある方はぜひご連絡ください。