合併症に関する研究
糖尿病合併症に関する研究
近年、糖尿病患者数の増加を背景に、血管合併症を有する患者数も増加の一途を辿っています。糖尿病血管合併症は患者のQOL低下や生命予後悪化に直結する重要な病態であり、学究的側面のみならず医療経済的側面からも新たな治療戦略の確立が急がれています。私たちは糖尿病血管合併症の病態解明を目指し、主に分子生物学的な手法を用いて研究を進めています。特に細小血管症と大血管症の共通した基盤病態に着目し、新たな治療標的の同定と創薬を視野に入れたプロジェクトに取り組んでいます。
研究課題
1.糖尿病細小血管症とRho/Rho-kinaseシグナル
低分子量G蛋白Rhoの標的分子であるRho-kinaseは糖尿病状態で活性化され、血管合併症の病態形成に深く関与しています。本来Rho/Rho-kinaseシグナルはアクチンストレスファイバーの脱重合やミオシン軽鎖のリン酸化による細胞形態・伸縮性の調節をはじめ、様々な細胞機能を制御しています。しかし、糖尿病状態の網膜においては血管新生因子の発現を誘導し(Jpn J Ophthalmol. 2007)、腎臓では酸化ストレスの亢進(Eur J Pharmacol. 2007)や炎症性サイトカインの発現(Biochem Biophys Res Commun. 2010, Am J Physiol Renal Physiol. 2014)、低酸素応答を介した糸球体硬化(Kidney Int. 2013)、尿細管上皮細胞の形質転換(Clin Exp Nephrol. 2014)を制御します。Rho-kinaseにはROCK1、ROCK2という二つのアイソフォームが存在しますが、腎糸球体においてはROCK2が糸球体上皮細胞のアポトーシスを引き起こし、アルブミン尿の増加に関与することが示唆されました(Int J Mol Sci. 2017)。さらに末梢神経におけるRho-kinaseの過剰な活性化は、接着関連分子の局在を介した神経障害の進展に関与することが明らかになっています(Exp Neurol. 2013)。
2. 糖尿病大血管症とRho/Rho-kinaseシグナル
Rho-kinaseは血管内皮での接着分子発現(Biochem Biophys Res Commun. 2013)や炎症性サイトカイン(Biochem Biophys Res Commun. 2011)の発現をも制御しており、この過程には特にROCK2アイソフォームが強く関わっています(Int J Mol Sci. 2019)。Rho-kinaseは、大血管症の進展過程においても重要な役割を担うと考えられます。これまでの検討結果から、糖尿病による血管合併症は臓器ごとに進展するものではなく、Rho-kinaseの活性化を主体とした共通の病態があると私たちは考えています。これは同時にRho-kinaseが有効な治療標的となることを強く示唆するものであり、臨床に対する還元を強く意識して研究を進めています。
チーフ
教授 | 横田 太持 平成元年卒 | ||
講師 | 的場 圭一郎 平成15年卒 |
学会活動
- 日本内科学会
- 日本糖尿病学会
- 日本糖尿病合併症学会
- 日本糖尿病眼学会
- 日本腎臓学会
- 日本末梢神経学会
- 日本動脈硬化学会
- 日本糖尿病・肥満動物学会
- 米国糖尿病学会
- 欧州糖尿病学会
受賞・研究助成
- 平成31年 東京都医師会医学研究奨励賞(的場 圭一郎)
- 平成31年 文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)(川浪 大治)
- 平成30年 横山臨床薬理研究助成基金研究助成(的場 圭一郎)
- 平成30年 MSD生命科学財団研究助成(的場 圭一郎)
- 平成30年 文部科学省科学研究費補助金若手研究(的場 圭一郎)
- 平成30年 日本糖尿病財団コストコ研究助成(的場 圭一郎)
- 平成30年 東京慈恵会医科大学同窓会海外派遣助成(竹田 裕介)
- 平成29年 上原生命記念科学財団研究奨励費(的場 圭一郎)
- 平成29年 東京都医学総合研究所若手研究員国際学会参加経費助成金(赤嶺 友代)
- 平成29年 東京慈恵会医科大学研究奨励費(的場 圭一郎)
- 平成28年 文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)(川浪 大治)
- 平成28年 東京慈恵会医科大学同窓会海外派遣助成(永井 洋介)
- 平成26年 上原記念生命科学財団研究助成金(川浪 大治)
- 平成26年 かなえ医薬振興財団海外留学助成(的場 圭一郎)
- 平成26年 日本糖尿病合併症学会Young Investigator Award(川浪 大治)
- 平成26年 万有医学奨励賞(川浪 大治)
- 平成26年 慈恵医師会研究奨励賞(的場 圭一郎)
- 平成26年 上原記念生命科学財団海外留学助成リサーチフェローシップ(的場 圭一郎)
- 平成26年 東京慈恵会医科大学同窓会海外派遣助成(的場 圭一郎)
- 平成25年 日本適応医学会学術集会最優秀演題賞(的場 圭一郎)
- 平成25年 文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)(的場 圭一郎)
- 平成24年 慈恵医師会研究奨励賞(川浪 大治)
- 平成24年 万有生命科学振興国際交流財団研究助成(川浪 大治)
- 平成23年 武田科学振興財団研究奨励金(川浪 大治)
- 平成23年 文部科学省科学研究費補助金若手研究(B)(川浪 大治)
- 平成22年 日本糖尿病学会年次学術集会プレジデントポスター(川浪 大治)
- 平成22年 東京慈恵会医科大学同窓会海外派遣助成(的場 圭一郎)
- 平成20年 文部科学省科学研究費補助金基盤研究(C)(横田 太持)
- 平成19年 米国心臓学会ポストドクトラルフェローシップ(川浪 大治)
- 平成18年 かなえ医薬振興財団海外留学助成(川浪 大治)
留学先
国外 | Harvard Medical School, USA Case Western Reserve University, USA University of Toronto, Canada |
国内 | 東京大学大学院医学系研究科循環器内科 東京都医学総合研究所 |
合併症研究班は細小血管症や大血管症の進展機構解明、さらに血管合併症に苦しむ患者の一刻も早い救済を目指し、日々診療と研究に取り組んでいます。私たちの研究内容にご興味ある方はぜひご連絡ください。